福井県の南越前町にある糠地区。山、海、川との距離が近いここは「越前糠杜氏」の発祥地として有名だ。この地で生まれ育った藤野さんは、中学卒業とともに京都府伏見の酒造へ就職した。
日本酒になる前の醪(もろみ)を見て仕上がりを見極められるようになるまで、長い経験が必要だという。炊事担当から始まり、努力が認められれば徐々に役職が上がっていく。その最上位が杜氏だ。
「早く杜氏になりたいという気持ちはずっとありました」と藤野さん。実際に
杜氏になると、その責任の重さを実感したそう。悩んだら相談し、ミスをしたら報告する。誤魔化しがきかない世界だからこそ、正直でいなければならないと語った。
「厳しい世界だったけど、嫌になることはなかったですね」と笑う藤野さん。酒造りは難しいからこそ面白いのだという。その正直さと強い心が、今も糠地区に受け継がれてい
るのだろうと感じた。
本多 鼓