越前海岸を探る!LOCAL LEARNING TOUR『地質学編』

「高さ約100mにもなるこの鳥糞岩は、約1700万年以上前に河川などで流されてきたものが堆積し、隆起したものです」
海からほぼ垂直に切り立つ大断崖は、越前海岸沿いを車で走ったことのある方なら誰もが目にしたことがあるはず。

ローカルラーニングツアーの第2回は、「地質学」がテーマ。
講師には、元福井市自然史博物館特別館長の吉澤康暢さんをお迎えしました。

元福井市自然史博物館特別館長の吉澤康暢先生

福井県で初めて選定された重要文化的景観の越前海岸。越前水仙が咲くのは急斜面がほとんど。なぜそんな地形が生まれたのか。その謎を吉澤先生に解説いただきながら現地を歩きます。

「鳥糞岩の壁面を見てください。大小さまざまな石(礫)が集積していることが分かると思います。あと、筋が入っているのが分かりますか。これを層理(そうり)と言います。河川などで流されてきた膨大な量の礫が、月日をかけて何層にも重なって、礫岩層(れきがんそう)をつくります。きっと長い時間転がってきた石だから角が取れて丸い礫ばかりですね。この礫が生まれ、堆積して礫岩層をつくり、隆起し、今私たちの前に姿を見せてくれているのです」
いつもなんとなく眺めていた鳥糞岩。隆起した後も、海の波から受ける侵食で今のような姿になった。こういった崖は海食崖というそうだ。

巨大な「鳥糞岩」の目の前に立つと、その存在感に圧倒される

鳥糞岩からいつも車で通るトンネルを歩く。このトンネルも礫岩層を掘って作ったもの。礫岩層は、非常に脆い。礫の隙間は砂や泥で埋められている。礫は人の手でも簡単に取れてしまう。きっと工事も大変だっただろう。と、その日の朝何気なく通ったトンネルの見方が既に変わっていた。

トンネル内を歩くなかなかない体験も

「壁のように立っているのは、約1700万年前にデイサイトと呼ばれる溶岩が礫岩層から貫入したもの。真っ直ぐに伸びていることが分かりますね。その黒くなっているのは木が化石になろうとしている途中の状態です。化石になるには1万年は必要なので、化石になるのはまだまだ先。でも、表面に出てしまっているものは、きっとその前に風化して無くなってしまうでしょう。みなさんが今目にして手で触れているものは、とても貴重なものなんですよ。」

足元には言われなければなかなか分からないが、はるか昔に思いを馳せる貴重なものがたくさんあった

吉澤先生の頭の中のスケール感は、私たちとは全く違う。お話の中は「一桁先かな」「まだ若いです1000年くらいでしょう」「恐竜はもういないですよ(笑)もっともっと前の時代」と、さまざまな時代にタイムスリップする。普段そんな時間軸で物事を考えることがない頭は、チューニングが追いつかなかった。

海沿いに立つデイサイト。昔は周りに礫岩層があったそうだが、今は波に侵食されてその姿はない

越前海岸の重要文化的景観は、水仙畑などの人の手が入った近代だけが評価されたものではない。地質学的な時間軸で考えると、それではあまりにも表面的。もっともっと遠い時代がつくり出した地形があり、海岸沿いの自然環境が磨き、さまざまな生物や植物が生きてきた歴史があって、今の越前海岸がある。
「いつも見ていた風景の見え方が今日でガラッと変わりました」と、参加者の方が口にされていた通り、越前海岸の景観はここだから生まれ、ここでしか見ることのできない魅力。

「今日みなさんが見ている風景、特にあの釣り人がいる小さな島。礫岩層はとても脆いので、来年にはあの場所がなくなっているかもしれません。名勝である呼鳥門も昔は下を車でくぐることができましたが、侵食や剥離で年々形を変え、今では一般の方がすぐそばで見ることもできなくなってしまいました。越前海岸は、はるか昔の生い立ちから、来るたびに変化する姿も見ることができる稀有な場所なんです。」

日々変化する越前海岸の風景

壮大なスケールを感じながら吉澤先生と一緒に歩く越前海岸は、まるで物語の中に自分が入ってしまったかのような不思議な感覚になる時間だった。それはきっと、短時間の中に、たくさんの気づきと驚きがあったから。ローカルラーニングツアーの第2回は、文章や写真だけでは計り知ることが難しい実体験満載の1日となりました。

このユニークな景観も越前海岸ならでは。越前水仙の咲く季節だけではなく、夏も楽しめます

次回は、11月19日(土)!
テーマは、『蛇行する谷に林立する家屋!糠集落の歴史を建物から探る』
。南越前町の糠地区を舞台に、建物から越前海岸の歴史を探っていきます!

越前海岸を探る!LOCAL LEARNING TOUR『植物編』

冬には白い越前水仙で覆われる棚田。周りには紅葉を待つ銀杏の木

冬の越前海岸を歩くと風に乗って水仙の甘い香りが漂ってくる。この日香ってきたのは、銀杏の独特な香り。
越前海岸の文化的景観を探るローカルラーニングツアー第1回のテーマは、『植物』。
水仙の名所だからこそ、観光客などが目にする水仙畑は冬の季節のみ。しかし、水仙以外にも越前海岸ではたくさんの植物を見ることができる。
今回は、植物や自然観察のプロである久米田賢治さんと藤野勇馬さんを講師にお迎えし、水仙畑周辺に自生する植物の観察会を開催。

久米田賢治さん(左)と藤野勇馬さん(右)

出発と同時にまずは、所々葉先が出てきている水仙の解説。草刈り後の畑には、水仙の周りにもさまざまな種類の植物が生えている。しかし、それぞれの生育温度(植物が育成できる温度)の違いで、冬には雪の季節を越えられる水仙だけが残るとのこと。だから、冬には一面の水仙が咲き誇る風景に出会うことができる。

秋の越廼地区で斜面を見ると、至る所に越前水仙の芽

水仙を観察し終えて、銀杏の匂いがする方を見ると、越前水仙カメラでいつもお世話になっている水仙農家の藤崎さんご夫婦が銀杏を洗っていた。
「昔は販売していたけれど、今は知り合いにあげるだけ。でも、すごい量が採れるんだよ」
大量の銀杏を丁寧に水とザルなどの道具を使って種の部分だけに加工する。藤崎さんご夫婦は、越前水仙はもちろん、わかめ、もずく、銀杏などなど、この地域の季節に合わせた暮らしをしている。

いつ訪ねても季節の仕事をされている藤崎さんご夫婦

「植物は、花だけ。実だけでは分かりません。葉も大切。ちょっと違うだけで全く違う種類になるんです」と、講師のお二人と歩くと、いつも何気なく見ていた植物が全く違って見える。なにより、こんなに時間をかけて、植物を見ながらあるくことはなかなかない。
「本当はもっと足を止めて、地面に顔を近づけて観察したいんですけどね(笑)」参加者がどんな質問を投げかけても、必ず何科に属するなんという植物なのか教えてくれる。食べられるかどうかも。そして、植物を見分けるときには、見るだけではなく口に含んでみることもするそうだ。似た葉でも痺れるか痺れないかで判断することもあるという。

海辺には、葉が厚くて艶のあるものが多いとのこと

参加者は、惹かれた植物、気になった植物をカメラで撮影。今回OMデジタルソリューションズの協力でお借りしたレンズが14-150mmまでカバーできるということで、どんな状況の植物でも、自分達が見せたいように表現することができた。

カメラがあると、より周りをしっかりと観察することができる

観察会のゴールは、山ぶどう。道路沿いにポツポツとなっていた紫の粒。講師がおもむろに口に運び「どうぞみなさんも食べてみてください」と言う。恐る恐る口に入れてみると「甘い!」「すっぱい!」の声。

何気ないところに、食べることのできるおいしいものも

有識者がいなかったら見つけることも、口にすることもできなかったごほうび。何度も歩いたことがある道なのに、全然違った道に思えた植物観察会。食べることができる植物が生えていたり、なかなか前に進むことができないほどさまざまな植物が生えていたり、越前海岸には水仙だけではなく豊かな植物が自生していた。そして、意識と目線、知識の持ち方で当たり前はガラッと変わる。そんな実体験ができた観察会となった。

花、葉、茎、実、それぞれの特徴を本当に丁寧に教えてくれた講師のお二人

ツアーの最後は、参加者が撮影した写真をみんなで共有。
それぞれが印象に残った植物の写真や、名前クイズ、講師のお二人が写真一枚一枚に写る植物にまつわる知識を教えてくれるなど、その日を振り返って改めて学ぶ、とても楽しい時間でした。

次回は、今週末10月15日(土)!
テーマは、『地質から探る越前海岸形成史』。水仙畑が広がる急斜面をはじめ、越前海岸に存在する特徴的な地形・奇岩。その岩石や地層から越前海岸の成り立ちを探り、水仙栽培がなぜ広がったのかを考えてみます!
まだ、参加者も若干名募集していますので、こちらからお申し込みください

ごほうびの山ぶどうの採れる場所で集合写真

夫婦が届ける想い

越前水仙の露地の切花出荷は、11月下旬から始まり12月中旬にピークを迎え1月上旬までの約2カ月行われる。
良い切花が出荷できるようにと肥料散布や草刈りを含め一年間をかけ大切に育てられた水仙は、この2カ月間しか収穫できない。この2カ月間、水仙農家は朝から晩まで寝る間を惜しんで水仙に時間をかけている。

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越前水仙農家さん

2年目となる越廼地区をはじめ、越前海岸で「越前水仙」の栽培をされている水仙農家さんにお話を聞きました。
作業中、苦しい時は買って下さったお客さんが花瓶に活けて喜んでいる笑顔を思い浮かべ、水仙を傷めないよう一日でも長く持たす為に水仙の根本のハカマを綺麗に長く切るように工夫されているとのこと。

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笑顔

山本さんの水仙畑は山の中にあります。畑からは海が見えました。
ここでローカルフォトのみんなで、山本さんを囲んで、お話を聞いている時に撮りました。
水仙のお話をしている時は真剣な顔の山本さんが、ふとすごい笑顔になって、いまだ!と思い夢中でシャッターを切りました。

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刈り取り後の姿

水仙農家の藤崎愛子さんは畑脇の水場で、刈り取ったばかりの茎から泥を落としながら、越前水仙の厳しい規格についてお話ししてくださった。
はかま(球根から生えてくる白い部分)の長さ、花の長さ。葉っぱは4枚。花は3輪以上で尚且つ一輪のみ3分咲きであとは蕾のもの。だから畑は青かったのか。
数多の中から規格に叶う物を探してみたが、さっぱりであった。ちょっと厳し過ぎやしませんか。と、いい加減な私はつい思ってしまう。無造作に刈り取っておられるようで、きちんと見極めている、経験に裏打ちされた目に恐れ入った。洗い終えた水仙をキュッと結えて抱えたお姿がとてもかっこ良く見えたので撮らせていただいた。

倉橋 藍
大阪府箕面市出身の3児の母。
食をテーマにオテシオとして活動中。
学生時代日本カメラ博物館でカメラについて学ぶ。
だが写真の腕前は娘に水をあけられている。

水仙畑の時間

11月、花の見ごろには少し早い居倉町の水仙畑では、イチョウの黄色が思いのほか鮮やかだった。こんなにもイチョウが多いのは、以前に銀杏を採って出荷していたからと聞いた。
あらためて見直してみると、穏やかな景色のなかにそれまで越前海岸の人びとが取組んできた生業の跡がそこここに残されていた。水仙畑はかつての棚田であり、小ぶりだけれど味のしまった蜜柑も市場に出していた時期があったという。ほかにも三椏やアブラギリなどが時々に栽培・採取され、それらが組み合わされて生計の助けになっていたのだ。
険しくて、そして美しい水仙畑から、そこでの人びとの取組みと時間の重なりがどれほど読みとれるか、もう少しやってみたいと思っている。

柳沢 芙美子

埼玉生まれですが、
ふくいでの暮らしも30年を越えました。
資料を読み解きながら、
浮かび上がってくるふくいの物語を
書きとめていきたい。
できたらカメラでも、
と思う。

選別作業

福井市下岬地区の藤崎愛子さんに、出荷前の越前水仙の選別作業について教えていただいた。
越前水仙の出荷規格は細かい。長さを書いた板に並べて分類する。さらに花つき、白い袴部分の長さ、葉が4枚か、花が葉よりも短いかなども、重要だ。
今回見せていただいたのは、刈り取った水仙を湧き水で洗い、選別する作業。花が開かないよう冷水で泥を落とし、葉先が赤茶けていないかを、流れるような手つきで厳しくチェックしていく。鎌に目印のテープを貼り、長さをこの段階から選り分けはじめるのが藤崎さん流だ。この後、小屋で細かく選別し長さごとに束にする。収穫の3倍以上の時間が選別作業に費やされる。農家さんの選別へのこだわりとプライドが、そのまま越前水仙のブランド力になっている。

北村 明恵
福井市図書館勤務。
チーム福井ウィキペディアタウンとして、福井の情報をWikipediaに掲載する活動を推進しています。

水仙農家の暮らし

越前岬の近くにある上岬地区で梨子ケ平千枚田水仙園の水仙農家の作業風景。
早朝より雪も舞い急斜面で日本海から冷たい風も吹き上がる場所での収穫作業。防寒着を付けて鎌と収穫した水仙を入れる籠を担いで出かける。刈り取りに便利なように鎌も工夫してあり、袴(茎)からスムーズに採れるようになっていた。
午前中の収穫を終えると、昼頃には農家の作業場に戻り水仙の茎や葉から土などの汚れを洗い流す作業を始める。その為に作業場には水道の蛇口と桶が置かれている。冷たい水を使いその後商品価値を上げるため斜めになった袴を綺麗に揃える作業。そして袴の長さや葉の枚数などで商品価値が変わるので夜更けまで丁寧に選別すると言う。

吉田隆一