日本海に面し、厳しい海風が吹き寄せる、福井県の越前海岸。そこで咲き誇る越前水仙を、長年にわたり栽培してきた水仙農家の田中民子さんは、若々しく見えるもののもうすぐ80才。
収穫だけでなく、草刈りなど維持管理に大変な労力をかけながらも、あふれ出てくるのは越前水仙への「愛情」。つぼみの状態で摘み取りながら、「都会で、ちゃんと咲けるの?若いのにここから離してしまってごめんね、と話しかけるの」と語る田中さん。水仙が一番きれいに咲けるのは、ここだと知っているからだ。
その顔を見ているうちに、「何か自分たちにできることはないか」という気持ちが、自然とこみ上げてくる。田中さんの体に染みついた技術は引き継げないかもしれない。でも水仙への「想い」があれば、「ヨソモノ」でもできることがきっとあるはず。かけがえのないこの景観を残していくために、やれることから始めてみよう。
石原康宏