越前海岸に冬の時期だけ咲く越前水仙。冬の日本海の厳しい寒さにさらされて花弁は小さく保たれ、その可憐さや他にはない香りを求めて全国にもファンが多いことで知られています。
そんな水仙を作り続けて25年の水仙農家、田中民子さんにお話を伺いました。
「 趣味はグランドゴルフ、シーズンオフの時には京都の美術館に行くのが楽しみ」と、 もうすぐ80歳になるとは思えないほど若々しい田中さんは言います。しかし、話が水仙づくりに及ぶと口調は険しくなりました。
急斜面で草取りしないといけないこと、出荷の時期には朝から晩まで働き詰め。花を長持ちさせるために寒くても戸を開けて作業しなければならないこと。鹿による獣害。「若い人にはとてもできないと思う。私の代でもう終わりやろね」それは偽らざる本音なのでしょう。でも田中さんはきっぱりと「私は水仙を愛しています」と続けました。
田中さんは時々畑で水仙に向かって謝るといいます。それは規格を守るため、まだ若いうちに刈り取ってしまうから。田中さんは畑で成熟し花を咲かせた水仙と、若いまま摘み取られ花瓶の中で咲いた水仙は違うのだと話してくれました。本当の越前水仙は都会で見ることは出来ないのです。
倉橋 藍