刈り取り後の姿

水仙農家の藤崎愛子さんは畑脇の水場で、刈り取ったばかりの茎から泥を落としながら、越前水仙の厳しい規格についてお話ししてくださった。
はかま(球根から生えてくる白い部分)の長さ、花の長さ。葉っぱは4枚。花は3輪以上で尚且つ一輪のみ3分咲きであとは蕾のもの。だから畑は青かったのか。
数多の中から規格に叶う物を探してみたが、さっぱりであった。ちょっと厳し過ぎやしませんか。と、いい加減な私はつい思ってしまう。無造作に刈り取っておられるようで、きちんと見極めている、経験に裏打ちされた目に恐れ入った。洗い終えた水仙をキュッと結えて抱えたお姿がとてもかっこ良く見えたので撮らせていただいた。

倉橋 藍
大阪府箕面市出身の3児の母。
食をテーマにオテシオとして活動中。
学生時代日本カメラ博物館でカメラについて学ぶ。
だが写真の腕前は娘に水をあけられている。

民子さんと水仙

越前海岸に冬の時期だけ咲く越前水仙。冬の日本海の厳しい寒さにさらされて花弁は小さく保たれ、その可憐さや他にはない香りを求めて全国にもファンが多いことで知られています。 
そんな水仙を作り続けて25年の水仙農家、田中民子さんにお話を伺いました。

「 趣味はグランドゴルフ、シーズンオフの時には京都の美術館に行くのが楽しみ」と、 もうすぐ80歳になるとは思えないほど若々しい田中さんは言います。しかし、話が水仙づくりに及ぶと口調は険しくなりました。 

急斜面で草取りしないといけないこと、出荷の時期には朝から晩まで働き詰め。花を長持ちさせるために寒くても戸を開けて作業しなければならないこと。鹿による獣害。「若い人にはとてもできないと思う。私の代でもう終わりやろね」それは偽らざる本音なのでしょう。でも田中さんはきっぱりと「私は水仙を愛しています」と続けました。

田中さんは時々畑で水仙に向かって謝るといいます。それは規格を守るため、まだ若いうちに刈り取ってしまうから。田中さんは畑で成熟し花を咲かせた水仙と、若いまま摘み取られ花瓶の中で咲いた水仙は違うのだと話してくれました。本当の越前水仙は都会で見ることは出来ないのです。

倉橋 藍