越前水仙のこころ

越前水仙を年間3万本出荷するという田中民子さんに話を聞きました。

水仙出荷歴25年と聞いていたのでがっしりした方を想像していましたが、思ったよりも小柄なことにまずびっくりしました。田中さんは、今年80歳には思えないほど肌はつやつや、背筋はしゃんとしておられ、すたすた歩いて登場されました。

田中さんは、越前海岸に生まれ育ち、55歳から家業であった水仙農業に取り組んだそうです。

水仙は、海岸沿いの急斜面で育てられます。海からの風、水はけのよさなどから、この急斜面が水仙の栽培には必須の条件だと田中さんは語ります。

私なら立っているのもやっとなほどの急斜面。草刈りも、収穫も、水仙農家歴25年の田中さんにとっても、「とてもつらい」ことなのだそうです。

水仙出荷期の冬。田中さんが、畑にでて水仙を刈るのは1日2時間ほど。実は、刈り取った後の作業に膨大な時間がかかります。

収穫された水仙は、出荷までに、洗って泥を落とす、水揚げする、株を切りそろえる、葉の数で選別する、などの作業が必要です。蔵での一連の作業は、水仙の品質をよくするために、ドアも開け放ち寒い中、行われます。1ヶ月ほどの出荷期には、寝る間を惜しんで夜10時くらいまでの作業が連日続けられます。

「越前水仙」ははかまの長さなど規格が厳格に定められ、満たしたものだけが出荷されます。「1日でも長持ちするように」という田中さんの思いをのせて、水仙が出荷されていきます。

聞けば聞くほど、水仙農業は過酷です。しかし、田中さんの語り口は爽やかで、私は辛いだろうに・・・なぜだろう?と思いながら話を聞いていました。

「私は水仙を愛しています」

と田中さんが口にされたとき、私の胸はきゅんとし、ナゾがとけたような気がしました。

田中さんは続けて、水仙の魅力を、素朴で控えめなところと語りました。

私は、田中さんの姿そのものだなぁと感じました。

さて、田中さんから1束いただいた水仙は、2週間たった今もわが家の玄関で、いい香りを漂わせ咲いています。毎晩、仕事を終えて帰宅したときにまずかぐ香りは、私の気持ちを落ち着かせてくれます。そして、田中さんの笑顔を思い出し、また、あの海岸に水仙を見にいきたいなぁと思うのです。

鷲山 香織

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