「想い」がつなぐ、越前水仙

日本海に面し、厳しい海風が吹き寄せる福井県の越前海岸。ここ南越前町の糠地区にも、かつては沿岸一帯に越前水仙が咲き誇っていました。
異変が起こり始めたのは15年ほど前。南の方からイノシシやシカが北上し、甚大な被害によってその美しい景観が損なわれてしまったのです。
一時は「意気消沈してしまい、もう栽培を諦めようかと思った」と語るのは水仙農家の大浦和博さん。それでも、町や他の農家さんと協力しながら、球根を植え、草を刈り、イノシシやシカの防護柵を設け、再び越前水仙が花を付けられるように尽力されてきました。
そんなある日、水仙の摘み取り体験で訪れた時のこと。「しばらく畑に入っていないから、咲いているかどうか・・・」と、やや不安な面持ちの大浦さんと坂を上ると、そこには少ないながらも健気に咲く水仙の姿が。
「これならまた、やる気が出るね」と、嬉しそうに話す大浦さん。その優しい眼差しが、とても印象的で心に残りました。

石原康宏
㈱JTB福井支店 観光開発プロデューサー
2014年に愛知から転勤で福井へ。福井の風土とヒトに魅入られて移住・定住を決意。多くの文脈で福井を語れることに至福の喜びを感じる46歳。

これからも、この景観を残し続けるために

日本海に面し、厳しい海風が吹き寄せる、福井県の越前海岸。そこで咲き誇る越前水仙を、長年にわたり栽培してきた水仙農家の田中民子さんは、若々しく見えるもののもうすぐ80才。
収穫だけでなく、草刈りなど維持管理に大変な労力をかけながらも、あふれ出てくるのは越前水仙への「愛情」。つぼみの状態で摘み取りながら、「都会で、ちゃんと咲けるの?若いのにここから離してしまってごめんね、と話しかけるの」と語る田中さん。水仙が一番きれいに咲けるのは、ここだと知っているからだ。
その顔を見ているうちに、「何か自分たちにできることはないか」という気持ちが、自然とこみ上げてくる。田中さんの体に染みついた技術は引き継げないかもしれない。でも水仙への「想い」があれば、「ヨソモノ」でもできることがきっとあるはず。かけがえのないこの景観を残していくために、やれることから始めてみよう。

石原康宏

越前水仙が、咲き続けるために

水仙の「見頃時期」は1月から2月。越前海岸でもその頃になると、荒れた日本海を見つめて小さいながらも香り立つ、水仙の群生する姿を見ることができます。
実は、ここで咲いている水仙が生花店に並ぶことはありません。育ち具合が足りず出荷できなかった水仙たちなのです。
水仙は球根から育ちます。次の年には新しい花を咲かせますが、咲いたままでいると球根は痩せて元気がなくなり、だんだんと花をつけられなくなってしまいます。
「せっかく咲いているのに摘み取るの?と思うかもしれないけど、その方がいいんだよ」と水仙農家さんは教えてくれました。今度は、翌年元気に花を咲かせてくれるように、水仙農家さんと一緒に摘み取りに来よう、と思いました。

石原 康宏
㈱JTB福井支店
観光開発プロデューサー