夫婦が届ける想い

越前水仙の露地の切花出荷は、11月下旬から始まり12月中旬にピークを迎え1月上旬までの約2カ月行われる。
良い切花が出荷できるようにと肥料散布や草刈りを含め一年間をかけ大切に育てられた水仙は、この2カ月間しか収穫できない。この2カ月間、水仙農家は朝から晩まで寝る間を惜しんで水仙に時間をかけている。

続きを読む “夫婦が届ける想い”

引き継がれ続く生業

福井県越前海岸の北に位置する越廼(こしの)地区は、『越前水仙』の発祥の地とされる。今も、40軒以上の水仙農家がいるそうだ。皆、親から畑と技術を引き継ぎ、水仙栽培を生業として続けているという。

年間3万本以上を出荷する、田中 民子(たなか たみこ)さんもその一人である。水仙栽培をする親を子供のころから手伝い、役場に勤めていた時期も、休みの土日に手伝いをしていたという。55歳の定年を機に、親から水仙栽培を継ぎ、79歳になった今も現役農家だ。越前水仙を切花として出荷するまでには、収穫、切り口の洗浄や調整、選別、結束と多くの工程があり時間もかかる。それを田中さんは、一人で行っている。
「子供が時間あるとき、ときたま手伝ってくれるの。」と笑って話す田中さんは、日本海のきびしい風雪に耐える越前水仙のように強く、そして控えめないでたちである。親から子供に引き継がれ、越前水仙栽培がこれからも続いて欲しい。

中村 麻由美

寄り添い支え合いながら

日本海の潮風に揉まれて育つ「越前水仙」は、他の産地の日本水仙に比べ、花がひきしまり、香りが強く、日持ちと姿勢が良いのが特徴だ。一本の立姿は、細いのに硬く締まって揺らぎがない。
日本海の潮風は、波の花が海から山に舞い上がるほど強い。越前水仙は、強い風を受けても倒れない。9月に球根から芽が出て、12月に花が咲くまでの4カ月間、水仙一本一本が互いに寄り添い支え合い耐えながら成長しているからだ。
藤崎武彦さん、愛子さんもご夫妻連れ添いながら、水仙農家をされている。お二人の笑顔と距離が、寄り添い支え合いながらの人生を感じさせてくれた。
水仙を手に取るとき、甘くて爽やかな香りと共に、水仙同士、人同士の繋がりを思い浮かべて欲しい。

中村 麻由美
福井市園芸センター
園芸技師。
越前水仙の試験研究、栽培農家の支援を行う。

ここがおすすめポイントだ!

水仙農家 山本正男さんに越前水仙の絶景写真をお願いしたら八ツ俣町の湾を見渡す山の上に連れてきてくれた。
日本水仙は、種はつけることができず球根で増える。花が終わると土の中で球根を分け、増やし、その命をずっと繋いでいる。だからといって、水仙は自分だけで綺麗に咲くことはできない。
水仙農家は、花が咲く12月~1月の2カ月間切花出荷を行う。出荷が終わると、次の世代への活動が始まる。「お礼肥え」といわれる肥料をあげ、水仙の球根が次の世代への力を貯めるための手助けをする。5月に葉が枯れれば、雑草に負けないようにと5月・8月の年2回草刈りを行う。いかに手を掛けたがで、その年の水仙の出来栄えが決まるという。それは、一年の積み重ねであり、先祖代々積み重ねてきたものである。水仙がないと作り出せない絶景は、水仙農家が作っている。

中村 麻由美
福井市園芸センター 園芸技師。
越前水仙の試験研究、栽培農家の支援を行う。