水仙産地の絶景さんぽ

冬の福井、空はほとんど鉛色。日本海は荒れ狂う。
そんな景色にも、彩りがある。
小さな白い花、越前水仙。海に背を向けると、山の斜面はクリーム色と緑のコントラストがきれいだ。
越前海岸と水仙畑が織りなす美観は、地元のおじちゃん、おばちゃんの普通な生活の営みでつくられているんだな。
「当たり前のこと、してきただけ。」
急斜面での作業はとても大変だと想像できる。
なのに、さらっと笑顔で話されていた。
高台に咲く小さな白い花達は、眼下で作業するおじちゃんやおばちゃんを見守っているように見えました。

林 美穂
福井県福井市生まれ。
趣味は、サウナで無心に汗をかいて、知らない人に話しかけられること。
特技は、知らない土地で現地の人と間違われるのか、道を聞かれること。
これからやりたいことは
福井の全酒蔵巡り!

文化的景観

急斜面が続く越前海岸の福井市居倉町。水仙栽培は、春のワカメ漁など、いくつもの生業を重ねて生きる人たちの冬の営みだ。
福井の中でも比較的暖 かく、水はけの良い急斜面は、水仙栽培にぴったりの条件。自生する水仙を収穫していたものを、斜面や棚田に栽培地を広げ、地域の特産に発展させてきた。そんな地域での暮らしの知恵が、白く、甘い香りが一面に広がる、冬の福井を象徴する風景を作り上げた。
この営みと暮らしの風景の、主役である水仙農家と、日本海、集落の家並み、水仙畑が織りなす、まさに文化的景観を写してみた。

倉橋 宏典
東京で都市計画・まちづくりのコンサルタントで働いたのち、11年前に福井にUターン。
現在は福井県庁。子供と一緒にカメラ修行中。

寄り添い支え合いながら

日本海の潮風に揉まれて育つ「越前水仙」は、他の産地の日本水仙に比べ、花がひきしまり、香りが強く、日持ちと姿勢が良いのが特徴だ。一本の立姿は、細いのに硬く締まって揺らぎがない。
日本海の潮風は、波の花が海から山に舞い上がるほど強い。越前水仙は、強い風を受けても倒れない。9月に球根から芽が出て、12月に花が咲くまでの4カ月間、水仙一本一本が互いに寄り添い支え合い耐えながら成長しているからだ。
藤崎武彦さん、愛子さんもご夫妻連れ添いながら、水仙農家をされている。お二人の笑顔と距離が、寄り添い支え合いながらの人生を感じさせてくれた。
水仙を手に取るとき、甘くて爽やかな香りと共に、水仙同士、人同士の繋がりを思い浮かべて欲しい。

中村 麻由美
福井市園芸センター
園芸技師。
越前水仙の試験研究、栽培農家の支援を行う。

水仙栽培農家さん

ローカルフォトスクールに参加して、カメラの基本を教わり、自分目線で良いと思った瞬間を撮影しました。温かい眼差しで見つめ合う姿が素敵で、カメラ初心者ですが、ご夫婦の自然な表情をしている一瞬を狙いました。
斜面いっぱいに広がる越前海岸の水仙畑で奮闘する、凛々しいご夫婦の姿。その後の作業場での優しい笑顔の姿、両方を見せていただきました。私の知らない越前海岸の魅力や個性豊かな福井人を探して、ここにしかない福井を全国の人たちに知ってもらえるように発信していきたいです。

山本 裕紀子
結婚を機に大阪から福井に来て、16年になります。
障害者の就労継続支援B型事業所で、一人ひとりが社会の中で、喜びを見い出していくことを目標に、サポートをするお仕事をしてます。

体力づくり!!

私は水仙の取材で、気づいたことがあります。
それは、私よりもお年寄りの農家さんだけれど、
とても体力があって、活発なことです。
水仙畑に行ったけれど、すでに私はヘロヘロでした。なのに農家さんはすいすい行くので、びっくりしました。それを見て、私も「もっと体力をつけよう」と思いました。
あと、毎日それを繰り返しているのが、とてもすごいなと思いました。
私も見習って頑張ろうと思います。

石原 朱莉
福井市春山小学校5年生(撮影時)

いつでも笑みを

「越前水仙」の現状の話になると、後継者不足、獣害の被害のことなど、どうしても明るい話ばかりではありません。
しかし、地域で活動する水仙農家さんには飛びっきりの「笑顔」がある。取材を通して感じたその笑みとエネルギッシュさを伝えたくてシャッターを切りました。
こだわったのは、縦写真であること。かつ、全てを写真に収めるのではなく、農家さんの溢れんばかり明るさが伝わればと撮影しました。

木曽 智裕
福井新聞社月刊fu編集部
(fuプロダクション)所属。

作業場の二人

居倉町の藤崎さんご夫妻に水仙選別を教えていただいた。
作業場の壁には大工だった時の道具が整然と並ぶ。今は、ご夫婦で水仙を栽培しここで選別し出荷している。収穫した水仙は、規格の板に並べ大きさ、葉の枚数や状態、花つきからランクを決め束にする。特に大きさは厳しく決められている。後ろに積まれているのが選別済みの水仙。
写真は、撮影者達からの相次ぐリクエストを笑顔で受け止めつつ、奥様のはにかんだ様子にお二人の仲の良さがでたと思った1枚。

北村 明恵
福井市図書館勤務。
チーム福井ウィキペディアタウンとして、福井の情報をWikipediaに掲載する活動を推進しています。

夫婦の横顔

50年余り、夫婦二人三脚。越前海岸の水仙畑が広がるこの場所に暮らしてきた。お父さんの本業は大工だ。自宅や作業小屋も自分で建てた。作業小屋には工具や、ワカメ漁と水仙の作業道具が丁寧に収納されていた。その作業小屋で今も2人は水仙の出荷作業を行っている。切り取った2人の横顔は同じ方向を見て共に重ねた歳月の分、なんだかよく似ていた。微笑む2人の横顔に、厳しくも美しいこの地に暮らす力強さを感じた。

牛久保 聖子
福井駅前で「クマゴローカフェ」を運営中。
Webメディアreallocal福井にてライターをしている。福井に暮らして6年。2歳のやんちゃ坊主の子育て中。好きな福井の日本酒は花垣。好きな福井の酒の肴は塩雲丹。

水仙を愛しむ手

水仙を選別する作業の一瞬を捉えた写真。水仙を包み込むようなやさしさの溢れる手に思わずシャッターを切った。この日は水仙出荷のピーク時期にあたり、大量の水仙を選別する作業が続いていたが、忙しい中でも、水仙をさばく手先は繊細さを失っていないことに気付かされた。水仙の可憐さは、越前海岸の変化に富んだ風土によってのみ生み出されるのではなく、人の関わりよる温かさが加わって形作られていくものなのかもしれない。

藤川 明宏
福井市の文化財保護係。専門は歴史考古学と仏教美術を少々。三角縁神獣鏡チョコの職人。福井の仏像を調査中。最近は越前海岸の水仙畑にも詳しい。

愛子さん

ノカテの活動でお世話になっている藤崎夫妻の奥様・愛子さん。越前水仙として出荷する上での等級の厳しさ、厳しい環境下での収穫の苦労など、最初に教えてくださった方です。大勢のカメラに囲まれ、質問やリクエストにも難なく応えるプロの生産者の顔から、ホッとした穏やかでかわいい愛子さんの表情に戻った時に、シャッターを切りました。ピンボケしたけど、愛子さんの笑顔と越前海岸の景色に助けていただいちゃった、そんな1枚です。

吉鶴 かのこ
大阪出身・在住のグラフィックデザイナー、イラストレーター。XSCHOOLをきっかけに5年前から月1度福井へ通う。2019年より、越前海岸を拠点に水仙産地の新しい景色と生業づくりを目指す「ノカテ」のメンバーとしても活動している。